|
井手口良一 アフリカの大草原の真ん中、ひとりぼっちのゾウがいま ドンベは群れからひとりだちしたばかりのまだ若い男の ひとりになったことは、すこしは寂しかったのですが、好 ・・・・たくさん歩いて、おなかがすきました。美味しそ その時です。 「もしもし、ゾウさん、ゾウさん」 かすかな声が聞こえました。ハタオリドリのおかあさんでした。 「お願いです。どうか、この枝をたべないで。わたしのかわいい なるほど、その木の枝には、たくさんのハタオリドリの巣が、 ドンベの大きな耳を近づけてみると、たしかにヒナたちのお母さ 「ゴメン、ゴメン。気がつかなかった」 ドンベは枝から鼻をはなすと、そおっと、その木から離れました。 ドンベはまた、遠くまで歩きました。おなかはもうぺこぺこです。 またかすかな声がします。 「もしもし、ゾウさんゾウさん」 こんどはジリスのおかあさんでした。 「お願いです。この草むらを食べないで。草の下にはわたしのこど ドンベは、思わずそおっと、うしろに下がっていいました。 「ごめん、ごめん。気が付かなかった」 ジリスの巣が壊れないように、そおっと、そおっと草むらから離 「これは困った。なんにも食べることができないじゃないか。おなか 次の日も、その次の日も、ドンベは何も食べていません。食べ物の ドンベはとうとう、広い草原のまん中に倒れてしまいました。おな 暗くなった草原のどこかから、心細いドンベを笑っているような声 ・・・・いつのまにか眠っていたのでしょう。気が付くと空はもう 空は真っ青に晴れていました。まぶたを濡らしたのは雨ではありま 目は覚めましたが、ドンベは立ち上がることが出来ません。すると 「ウオッホン。わしはスカラベというもんじゃ。まあ、口の悪い連中は、 「おまえは困ったやつじゃな。実に困ったやつじゃ。草原中のみんなに 「このわしが特別に作ったクスリダマを食べてみろ。元気が出るぞ。 そんなことをひとりでしゃべりながら、そのスカラベという小さな虫 なんともいえない良い香りが口の中に広がりました。噛んでみると、 ドンベにとっては、小さな小さなクスリダマでしたが、そのひとつで、ほんとうに少し元気が出たような気がしました。 するとどうでしょう。今度はあたりの空がまっくらになりました。こ ドンベの寝ている真上まで飛んできては、くわえてきた小さな木の葉 地面でも不思議なことが起きました。たくさんの草のボールがコロコ 「みんながお前のために運んできたんじゃ。ゆっくり食べるんじゃぞ」 スカラベがそう教えてくれました。 みんなが運んでくれた木の葉や草を、ドンベはゆっくりゆっくり噛 その日、お日様が沈み始めるころ、ドンベは立ち上がることができま それからずうっと、こころのやさしいドンベは、草原の小さな仲間た |
|||||