童話



 
小さな小さなヘビと大きな大きなミミズ

井手口良一

 

小さな小さなヘビがいました。ジムグリです。ジムグリは背伸びをしても四十センチしかない小さな小さなヘビです。ジムグリはやさしいやさしいヘビです。枯葉の下の小さな虫を食べて暮らしています。ほかのヘビたちはジムグリをからかうばかりで相手にはしてくれません。

「なんだお前は。そんな小さな体でヘビだなんていわないでくれ」

ひときわ体の大きなアオダイショウが太い声で言いました。

「それになんだよお前のその体の模様は。まるで枯れてしまった木の根っこじゃないか」

スマートな体をくねらして、洒落者のシマヘビが自分の体の縞模様をさも自慢げに言いました。

ヤマカガシだってジムグリの次に小さいのに

「おいおい、そばによらないでくれよ」

というばかり、仲間にはしてくれません。

かといってマムシだけは、ジムグリは恐くてそばにいけません。ある時、しいの木の下でマムシとであったのですが、低い声で

「シュー、誰だお前は。俺様の仲間じゃないな。あっちへ行け。シュー」

といわれただけで、ジムグリは気が遠くなるほど恐くて恐くて、あわてて逃げ出したくらいです。

そんなふうですから、小さな小さなヘビのジムグリは、いつもひとりぼっちです。

「僕は一人でいたって平気さ。友達なんていなくたって、一人でくらしていけるさ」

からかわれることが悲しくて、そんな強がりを言いながら、ひとりで枯れ葉交じりの土の中に閉じこもっていました。

でも本当は友達が欲しくて欲しくてたまりませんでした。


 クロミミズは大きな大きなミミズです。背伸びをすると四十センチメートルにもなる、大きな大きなミミズです。クロミミズは大きいけれどおとなしく、何にも悪いことはしません。森の木の下の土を食べて暮らしています。でも仲間のミミズたちは気味悪がって一緒に遊んでくれません。それどころか、いつもヤマミミズを遠くから見ながら、仲間同士でヒソヒソ話です。

「なんだなんだあいつは。ずいぶんとでかいじゃないか。本当に俺たちの仲間なのか」

シマミミズがそう言うと

「あんな大きなミミズだなんて。それにからだの色だって青黒くて、なんだか気味が悪いじゃないか」

ヤマミミズがうなずきながら言いました。

「あんなに大きなミミズなんて、わたしは一緒にいたくないわ。アッ、そばにやってくる。怖いわ、逃げましょうよ」

小さいヒメミミズもか細い声で言います。

そんなふうですから大きな大きなミミズのヤマミミズはいつもひとりぼっちです。

「僕は一人でいたって平気さ。食べ物は目の前にいくらでもあるし、第一、したいことはひとりでも何でも出来るさ」

誰かにヒソヒソ陰口を言われるのがいやで、やせ我慢をしながら、誰にも出会わないように、森の土の中を、ひっそりとはいまわっていました。

でも本当はクロミミズは友達が欲しくて欲しくてたまりませんでした。

「どうして僕は小さいんだろう」

ジムグリは落ちてきたドングリに聞きました。ドングリは笑って言いました。

「いやいやきみは小さくてかわいいよ。僕でよかったら、きみと友達になってあげるよ」

でもドングリはコロコロ転げて、どこかへ行ってしまいました。

「どうして僕は大きいんだろう大きくたって、怖くはないよ」

クロミミズは顔を出したばかりの、キノコに聞きました。

「僕はすこしもこわくはないよ。僕でよかったら、きみと友達になってあげるよ」

キノコはそう言って、小さな伸びをしました。でも、2日目の朝にはもう、キノコは枯れて、元の土に戻ってしまいました。

ジムグリとクロミミズは今日もやっぱりひりぼっちです。そんな小さくてひとりぼっちのジムグリと、大きくてひとりぼっちのクロミミズが出会いました。

二匹はお互いに少しはなれたところから、見つめあいました。どうせまた、何かいやな言葉を投げつけられるのではないかと心配だったのです。やがてクロミミズが勇気を出して

「やあ、こんにちは。ぼくはクロミミズです。きみもミミズですか。なんだかざらざらした体ですね。

枯れ葉のにおいがして、なんだか暖かいな。きみは僕を見てもにげていかないんですね。ぼくのお友達になってくれますか」

先に声をかけました。

「やあ、こんにちは。クロミミズなんて名前のヘビは聞いたことはないけれど。ずいぶんつるつるした体ですね。色だってとても綺麗だ。君だって、ぼくを見てにげていきませんね。ぼくのおともだちになってくれますか」

ジムグリもそう言いました。

 そこにモグラがやってきました。モグラはいつも暗いところに暮らしているので、目がよく見えません。

「おや、美味しそうなミミズのにおいだぞ。おや、なんと大きなご馳走だろう。こいつを食べれば、今日はこれだけでおなか一杯になれるぞ」

モグラは喜んでクロミミズを食べようとしました。すると鼻先のひげがジムグリの体に触れました。

「なんだなんだ。大きなミミズだと思ったらヘビだったのか。危なくだまされるところだった。自分が食べられてしまうところだったぞ」

モグラはそういいながらあたふたと逃げていきました。

 ジムグリとクロミミズは顔を見合わせて笑いました。

「やあ、ありがとう。どうも僕は君のおかげで助かったようだ」

ヤマミミズがお礼を言いました。

 空から大きな影が降りてきました。トンビです。トンビはジムグリをねらって急降下してきたのです。

「ちっぽけなヘビだけど、まあ少しはおなかの足しになるだろう。つかまえて食べてやれ」

 トンビの足のつめがジムグリをつかんだ時、すぐそばにいたクロミミズも一緒につかんでしまいました。トンビはクロミミズの体のやわらかい感じにびっくりして、獲物をはなしてあわてて飛んでいきました。

「なんだなんだ。どうも小さなヘビでおかしいと思ったら、どうもあれは猟師のしかけたわなだぞ。危うく、俺様のほうがつかまってしまうところだったぞ」

「やあ、今度は僕が助けてもらったようだね」

今度はジムグリがクロミミズにお礼を言いました。

ジムグリはクロミミズがけがをしているのに気が付きました。トンビの鋭い爪でつかまれて、体が切れてしまったようです。

「君はぼくのために、けがをしちゃったじゃないか。ごめんね。ぼくがうっかり、空に気をつけていなかったから」

「ぼくなら大丈夫だよ。ぼくたちみみずの体はね、少しくらい切れてしまったって、すぐにもとどおりさ。心配しないでいいよ」

 クロミミズはそういってむねをはり、ジムグリはクロミミズのけがをした体をなめてあげました。そして、二匹はもう一度顔を見合わせて笑いました。

小さな小さなヘビのジムグリと、大きな大きなミミズのクロミミズは、もうひとりぼっちではありません。二匹でいつまでも仲良く暮らしたそうです。

今でも、森のしいの木の枯葉の下では、ジムグリとクロミミズが一緒にいることが多いそうです。森に出かけて小さな地位さんヘビや大きな大きなミミズに出会ったら、やさしく声をかけてあげてください。

「かわいいヘビだね」

「きれいなミミズだね」

ってね。