「つぎは山の手団地一丁目、おおりのかたはボタンをおしてお知らせください」
バスの中に案内の声が聞こえています。
おやおや、なっちゃんもみかちゃんもおはなしにむちゅうです。だいじょうぶかな
なっちゃんとみかちゃんはバスでようちえんにかよっています。ふたりはとってもなかよし、いつもいっしょです。だって、おとなりどうしのおうちに住んでいるんです。ようちえんに行くときも、ふたりはいっしょ、バスていまでお母さんにつれてきてもらって、そこからはいつもふたりだけでバスにのります。かえるときもようちえんのまえのバス停までは、ほかのおともだちとゆきこ先生がいっしょですが、そこからはふたりだけでバスにのって、おうちまでふたりいっしょにかえります。
おおぜいのおおともだちも、いっしょのバスにのります。でもなっちゃんとみかちゃんがおりる山の手団地一丁目までには、ほかのおともだちはみんなおりて、いつもふたりがさいごです。
バスは山の手団地一丁目をとおりすぎてしまいました。そこからバスは右にまがります。きゅうにバスがまがったことで、さいしょに気がついたのはなっちゃんでした。バスのまどの外では、はじめてみるけしきがどんどんすぎていきました。
なっちゃんはみかちゃんにしがみつきながら、大きな声でなきだしました。それでみかちゃんも気がつきました。ふたりともバスでようちえんにかよいはじめて、バスていをのりすごしたのはきょうがはじめてです。みかちゃんは口をまいちもんじにきつくむすびびながら、しがみつくなっちゃんの手をしっかりとにぎりしめてあげました
バスにはなっちゃんとみかちゃんのほかにも、おきゃくさんがのっていましたが、しっている人はだれもいませんでした。とつぜんなきだした女の子の声に、のりあわせていたべつのおきゃくさんたちも、びっくりしています。バスのうんてんしゅさんもすぐにきがついてくれました。
「どうした。そうか、のりすごしたんだな。ごめんごめん、おじちゃんはきょうはじめて、このろせんにのったから、ふたりのおりるところをしらなかったんだ。どこでおりるんだったんだい」
ちょうどしんごうが赤になり、バスがとまったので、うんてんしゅさんはそんなふうにやさしくきいてくれました。
「山の手団地一丁目です」
みかちゃんがおこったような声で、きっぱりといいました。
「そうか、じゃあひとつてまえのバスていだったんだ。だいじょうぶ今すぐ、おろしてあげるからな。さあ、ちゃんと すわったままで、ちょっとまっていておくれよな。ここは、あぶないからな」
バスはつぎのバスていとのまんなかあたりのばしょにとまりました。
「このみちをまっすぐもどっていけば、山の手団地一丁目だからね。そこまで行けばもうだいじょうぶだろう」
しんせつなうんてんしゅさんはバスを止めて、そういってくれました。なっちゃんはそのあいだじゅう、ずっと、声を上げてないていましたが、みかちゃんはやはり、口をまいちもんじにむすんだまま、それでもなっちゃんの手をしっかりとにぎっていました。みかちゃんはちゃんとうんてんしゅさんにあたまを下げて、おれいをいいました。
そこからふたりははじめてあるくみちをいつものバスていまで歩きました。なっちゃんはやっぱり大きな声でないています。みかちゃんはやっぱり口をいちもんじにむすんで、でもふたりはまるで、ひとつのからだになったようにくっついてあるいています。
とちゅうで大きなゴールデンレトリバー犬のいるおうちのまえをとおりました。いつもは犬がだいすきなふたりですが、きょうはちがいます。ないているなッちゃんに犬の方もへんにおもったのか、大きな声で
「ワンワン、ワンワン」
とほえました。
なっちゃんはますます大きな声でなきます。みかちゃんはしっかりとなっちゃんをだきかかえながら、ほどうのいちばんはしによって、はしりたいのをがまんしながら、ゆっくりとあるきました。
やっと山の手団地一丁目のバスていのあるじゅうじろが見えてきました。もうだいじょうぶです。みかちゃんは、なんだかなつかしくてたまりません。おおきなおおきなためいきをひとつしました。そしてまた、みかちゃんは口をいちもんじにむすびました。なっちゃんはまだないています。
ふたりのおうちが見えてきました。しんぱいそうなかおをしたお母さんたちが、おうちのまえでまっていてくれました。
今までないていたなっちゃんはお母さんのかおを見るなり、みかちゃんとしっかりとつないでいた手をはなし、それはそれはうれしそうなかおになって走っていきました。みかちゃんの方をゆびさしながら、何かをいっしょけんめいにはなしています。なっちゃんのお母さんは、うれしそうにうなずきながらなっちゃんをだきしめています。そして、」みかちゃんのお母さんにむかって、ほほえみながら、おじぎをしました。
みかちゃんはどうしたでしょう。みかちゃんはほんの少しのあいだあいだ、立ちどまって、なっちゃんのはしっていくすがたをぼんやり見ていました。そして・・・・・。
「ママッ」
ひとこえ大きな声でそういうと、お母さんにしがみついてしまいました。
みかちゃんのめからは、おおつぶのなみだがつぎからつぎにながれて、声もでません。いいたいことはいっぱいあったのですが、ただただ、みかちゃんはお母さんにしがみついてないていました。
おわり
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